楠山正雄
底本:「日本の諸国物語」講談社学術文庫、講談社
1983(昭和58)年4月10日第1刷発行
入力:鈴木厚司
校正:佳代子
楠山正雄
するとお嫁(よめ)さんも、とうとうがまんができなくなって、
「わたしはもうこれぎり生(う)まれた国(くに)へ帰(かえ)ってしまいます。もともとわたしはあなたのような人のお嫁(よめ)になって、ばかにされるために生(う)まれた女ではないのです。」
といって、おこって一人(ひとり)ずんずん小舟(こぶね)に乗(の)って、日本(にっぽん)の国(くに)へ逃(に)げて行きました。そして摂津(せっつ)の難波(なにわ)の津(つ)まで来(き)てそこに住(す)みました。それが後(のち)に、阿加流姫(あかるひめ)の神(かみ)という神(かみ)さまにまつられました。
新羅(しらぎ)の王子(おうじ)の天日矛(あまのひぼこ)は、このお嫁(よめ)さんの後(あと)を追(お)って、日本(にっぽん)の国(くに)へ渡(わた)って来(き)たのでした。けれども摂津国(せっつのくに)まで来(く)ると、大国主命(おおくにぬしのみこと)に止(と)められて、陸(おか)へ上(あ)がることができないので、しばらくは海(うみ)の上に住(す)んでいました。けれどそこの海(うみ)からは、どうしても日本(にっぽん)の国(くに)へ入(はい)る望(のぞ)みがないので、ぐるりと外(そと)を回(まわ)って、但馬国(たじまのくに)から上(あ)がりました。そしてしばらく暮(く)らしているうちに、土地(とち)の人をお嫁(よめ)にもらって、とうとうそこに居(い)ついてしまいました。